日本のデザインは世界レベル

KIBATORA日本の雑貨店へ立ち寄ると、いくつもの優秀なデザインの製品が目に止まります。そのレベルは世界基準で見ても非常に高く、実際ロフトや東急ハンズなどの雑貨店は外国人観光客にとっても人気のおみやげスポットとして海外のガイドブックなどでも紹介されています。また、優秀なデザイン製品が集まるニューヨーク近代美術館(MoMA)のギフトショップには、陳列されている商品の半数以上は日本から輸入されている商品、あるいはデザイナーが日本人の製品です。このことからも日本のデザインが如何に優れているかということが証明されています。

しかしそれら製品が海外の市場で数多く見受けられるかというと、良い製品が多い割には比率的には非常に少ないというのが現状です。その主な理由を挙げると、コスト競争力、商流の違い、言葉の壁、の三つに集約することができます。

メード・イン・ジャパンの呪縛

雑貨のメーカー、特に規模の小さいデザインハウスなどは通常日本国内で生産を行っています。そのためどうしてもコストが掛かってしまい、狙った市場価格で販売するためには原価率(原価/市場価格)を20%を超えることもしばしばで、最終的な粗利率((卸価格ー原価)/市場価格)は流通経路により異なりますが、概ね20−30%というのが一般的です。日本国内に市場を絞っているのであればこのビジネスモデルでも成り立ちますが、海外での販売を行う場合には送料、展示会などへ出展する費用や海外出張費、さらに海外ディストリビューターの粗利など追加に発生する粗利を確保することは非常に難しくなります。

63d52591a55890639e01ee622141a130_sよってそれら製品が海外で販売される際の価格設定は日本の販売価格の倍近くになっており、その結果市場で受け入れられず終わってしまった製品はこれまでにも数多く見てきました。しかし製品・デザインとしては一級品であることには変わらないため、そこに目をつけた海外のメーカーが似たような製品をより市場に受け入れられる価格で生産・販売を行った結果、世界で爆発的に普及して大成功した、ということもよく見受けられます。このような場合、日本のメーカーは製品・アイデアを盗まれた被害者のように見えるかもしれませんが、コスト競争力のある製品がそもそも作れなかったという事実を直視できるメーカーは残念ながらまだ少ないと言わざるを得ません。

このことに対してメーカーからは「中国で作るとクオリティが落ちる」、「日本で作ることに誇りを持っている」、などこれまでにも様々な見解を聞いてきました。それらの意見には納得できる部分もありますが、ビジネスとして世界レベルで成功することが目標なのであれば、やはり開発当初から世界で戦えるコスト競争力を視野に入れておくことは避けられません。かと言って始めから海外で生産する必要はなく、例えば国内向けに販売する製品は国内で生産、海外向けには海外の工場で大量生産、などの棲み分けも可能です。重要なのは先を見据えた準備を始めから整えておくことであり、後からコピーしようとする業者に先駆けて彼らと同等のコストで生産できる道筋をたてておくことです。そのことによって製品が勝手にコピーされて海外で売られることの抑止力にも繋がります。

参考までにアメリカのデザインハウスでは、通常企画の段階から原価率が10%程度、粗利率が30−40%になるように開発を行います。そうすることによって海外(この場合アジアやヨーロッパ)の卸業者が買い付けに来た場合、通常の卸価格からさらに30−50%程度割引いた国際卸価格としてを提供することが可能になります。そのことによって粗利は減りますが、少なくとも国外で適正な市場価格で販売することが可能となり、デザインハウスにとっては粗利が少なくなっても確実に売れて市場が広げることが重要と考えているためです。

島国ニッポン

日本のデザイン製品が海外で浸透していない理由として次に挙げられることは、海外との商流の違いを把握できていないためです。日本では卸業者はお互い販路の「縄張り」を設定しており、それが紳士協定で守られている風習があります。よってデザイナーやメーカーはその縄張りを理解した上で複数の卸業者へ同じ商品を提供することを行っています。しかしそれが可能なのは、日本は海外と比べて圧倒的に国土が狭いということと、日本人の持つ道徳的気質がそうさせているからです。

New York Gift Showその一方海外では複数のディストリビューターが存在すると様々な問題が発生するため、通常メーカーは卸業者を国ごとに設定することが一般的です。在庫を抱える卸業者が複数混在すると、紳士協定が存在しないため地域や業種を超えて販売合戦が行われてしまいます。さらにこれは日本のメーカーにも当てはまることですが、国外へ展開する場合その国の市場価格は事情に精通している卸業者に任せて設定することが一般的です。しかしもし同じ国に複数の卸業者と取引をしてしまうと、メーカー自身がその国の市場価格をコントロールすることはそもそも難しいため、市場価格の統一さえ図れないという自体に陥ってしまいます。

これら問題の具体例をいくつか挙げてみます。あるディストリビューター(A社)が展示会などで積極的に営業を行った結果、発注をしようと考えたバイヤーは商品についてネットで検索します。その結果たまたま上位に表示された(ネット以外ではほとんど営業をしていない)別のディストリビューター(B社)へ発注してしてしまう、ということは簡単に起こり得ます。そうなるとA社にとっては営業損になってしまうので、先々取引を中止してしまうことになるでしょう。さらにもしA社に大量の在庫が残っていた場合には、在庫を処分するために大幅な値引きが行われるてしまいます。その結果B社にも注文が入らなくなってしまい、価格競争が起こってしまいます。さらにB社はこれまで恩恵を受けていたA社によるプロモーションが無くなった時点で売れ行きも落ち込んでしまい、最終的にはB社も取引を止めてしまうことでしょう。

複数のディストリビューターに任せることによってこのような負のスパイラルへ突入してしまうと、どちらのディストリビューターにとっても良いことはなく、結果的にその製品は取り扱われなくなってしまいメーカーにとっても販路を絶たれてしまうことにもなりかねません。

NY Gift Showまた国土の広いアメリカや、陸続きで複数の国境をまたぐヨーロッパなどでは、展示会には地域に限定されずあちこちから一斉に多種多様なバイヤーが買い付けに集まってきます。海外の展示会は日本の展示会とは違いその場で注文を受け付ける受注会がほとんどなので、出展しているディストリビューターやメーカーは全国(時には国外のバイヤーも)を対象に販売を行います。よって日本のように業種やエリアで区切って複数のディストリビューターを共存させるということはほぼ不可能です。

なおアメリカでは日本の代理店制度に近いセールスレップという企業や個人が存在します。彼らは限定した地域でディストリビューターの代わりに注文を取ったり、店舗を廻って営業を行ったり、その地方の展示会に出展したりすることもあります。ただしあくまでディストリビューターの代わりに営業活動を行っているだけで、在庫などは一切持たずに報酬は通常コミッションのみです。よって日本のように複数のディストリビューターと契約するというのとは根本的に異なります。

ここではほんの一部しか挙げていませんが、世界レベルで製品を売っていくためにはこのような商流の違いを把握しておくことは非常に重要で、最初の一歩を間違えてしまうと、軌道修正するのに何年も時間を費やさすことになることさえあります。

一歩踏み出す勇気

9dedea8793b10f2d37b45eb8c956893d_s日本人デザイナーの誰もが海外を意識した時に感じる最初の壁は言語や文化の違いです。単純に説明書やキャッチコピーを英語にしたいということや、海外で生産を行うために英語や中国語で交渉を行わなければならないことなど、言語や文化の違いは海外で製品を販売を考えているデザイナーにとって二の足を踏む大きな要因になっています。それに加えて言語の壁はその国の商流や安全基準などのルールを理解することも困難にしてしまいます。もちろんデザイナーが言語を習得できれば全て解決しますが、一番効率的に製品を世界へ送り出すためにはその国の文化や言語に精通しているパートナーを探すことで解決できます。

日本から世界へ

IMG_3620優れたデザイン製品が日本で埋もれている理由には、コスト競争力や商流の違い、さらには言語や文化の壁などの要因を挙げてきましたが、最も重要なのはデザイナー自身が国内販売だけで満足せずに海外で成功するという目標を掲げることです。世界はインターネットの成長とともにどんどん身近なものになっています。現時点で日本には世界で類を見ないほどクオリティの高いデザイン製品であふれていますが、10年後、20年後には周辺諸国のレベルもかなり上がっていると考えても不思議ではありません。かつて日本の携帯電話は世界でトップレベルの性能や品質を誇っていましたが、国内市場で満足して世界戦略をないがしろにした結果、いつの間にかその存在すら危ぶまれています。日本のデザイナーや製品にはアドバンテージのあるうちに、積極的に世界へ展開して確固たる地位を確立してほしいと切に願います。